温泉地への訪問は、私にとって日々の疲れを癒す大切な時間です。その楽しみのひとつが、いつも出迎えてくれるキジトラの野良猫とのふれあいでした。

その猫は、温泉の入口近くでお客さんを見送るように座り、のんびりとした姿で癒しを与えてくれる存在でした。何度も訪れるうちに、私たちは少しずつ心を通わせるようになり、訪問するたびに猫用の缶詰やおやつを持参して、猫に渡していました。

しかし、今回の訪問で猫の姿が見当たりませんでした。

最初は「どこかで休んでいるのかな」と軽い気持ちでいましたが、いつもの場所に餌を置いても手をつけた形跡はなく、翌朝になってもそのまま残っていました。何度も餌の場所を確認するうちに、不安な気持ちが湧き上がり、次第に心にぽっかりと穴が空いたような感覚に包まれました。

私にとって猫はペットではありません。それでも、猫の存在は私の中で大きな意味を持っていたのだと、初めて気づきました。いつも温泉に行く前から「また会えるかな」と楽しみにしていたこと、自分が持っていくお土産に喜んでもらえること、そのすべてが心の拠り所になっていたのです。

猫との出会いがもたらしてくれる喜びは、何物にも代えがたいものです。たとえ一時的な出会いであっても、そこに生まれる絆は私たちの心を豊かにしてくれます。だからこそ、その存在を感じられなくなったときの喪失感は、簡単には埋められないものです。

今、私は猫がどこかで元気でいてくれることを願うばかりです。たとえ再び会えなくても、猫との思い出は私の心に残り続けるでしょう。

温泉地を訪れるたびに、また新たな猫たちに出会えるかもしれません。でも、キジトラの猫のことを思い出すたび、私は少しずつ、その思い出を大切にしていけるようになりたいと思います。

みなさんも、日常の中でふと出会う動物たちとの時間を、大切にしてみてはいかがでしょうか。それはきっと、あなたの心を癒す力になるはずです。